Electiveについて (1)

20199月入学のMNです。9月入学の学生はTerm3Electiveを履修する(1月入学はTerm4で履修)のですが、今回はそのElectiveについて、私が選んだ授業の感想をお伝えできればと思います。

 

Shape Your Leadership Style

自分がどのような人間なのかを理解すること、自分がどのようなリーダーになりたいのかを考えさせる授業で、ソフトスキル系に関わる授業でした。リーダシップは個々人の信頼に基づいたものであるという基本に基づき、クラスメートとの1on1のミーティング、グループワークを通じて、他のクラスメートをより深く知り、自分なりのリーダシップスタイルを考える、というセミナーに近い授業でした。

私が特に面白いと感じたのはグループワークでした。自分が過去に体験したリーダーシップ上の課題をグループメンバーに共有し、そうした課題に対してメンバーから別のアプローチ方法を提案してもらうというものでした。私はHEC留学中にチャレンジしたMBATというプロジェクトでチームリーダーを務めた際の課題・自分の反省を話したのですが、他の人間が同じ立場でリーダーシップを取った場合のチーム運営方法についてFBをもらうことができ、自分では気づかなかった観点をコメントもらえたのは非常に面白かったです。

MBA留学期間中に自分のリーダーシップのあり方を振り返ること、さらにクラスメートからFBをもらう機会というのは想定していたほど多くなかったので、自分のスタイルを磨き上げる上で面白い体験ができた授業でした。ハードスキルが身に付く授業ではないですが、受講したクラスメートからの評価は総じて高かったようです。

 

Management Buy Out

Bain Capitalでバイアウトの経験がある教授による授業で、主に以下の内容に関して説明がありました。

PEファームの運用報酬体系(マネジメントフィー、キャリー)

PEファームのファンドレイジングとファンド間のガバナンス

IRRのバリュードライバー(売上高の変化、EBITDA率の変化、マルチプル変化、レバレッジ比率の変化、という4つのバリューレバーの理解)

IRRの限界とMIRRの考え方(同じ利回りで再投資することを前提として計算するIRRという指標の限界)

また、授業の最後にはグループ位でMBOの提案をするという課題が与えられ、この課題に相当な時間を費やしました。私のチームでは、米国のスーパーマーケットであるTargetを買収対象先として考え、バリューアップ方法、LBOモデリング、EXIT先候補の選定等、投資銀行業務で培った知識を活用してクラスメートの前で提案を行いました。

 

Advanced Private Equity

Jolt CapitalというPEファンド(Later StageGrowth企業に投資するPE)でプリンシパルを務める教授による授業でした。

PEという名前の授業ではあるものの、内容としてはGrowth Stageにあるベンチャー企業に対する投資を行うPEファンドのビジネスを紹介する授業でした。そのため、バリュエーションは通常のDCFではなく、ベンチャーファイナンス特有のバリュエーション手法を教わりました。Double Dipping(優先株主の権利として最初に残余財産の割当てを優先的に受けた後に、普通株主としても残余財産の割当てを受ける権利を有すること)といったベンチャーファイナンス特有の専門用語を学んだことに加え、契約書でも通常のM&Aでは見られないであろう条項(Drag Along 条項やTag Along条項)等を細かく教わりました。

 

Mergers and Acquisitions(Legal)

M&Aの契約書における条項を細かく説明してもらうという授業でした。過去に法律事務所でM&Aのアドバイザー業務を行っていた教授が担当し、SPAにおける各条項のコンセプトや重要なポイントを解説してもらいました。

具体的にはCPCondition Precedent)における、Change of Controlの条項、Closing AccountLock Box Conditionの違い、Warrantyの考え方とその支払い条件等、M&ASPAShare Purchase Agreement)の交渉時に特にポイントとなる部分に絞ってレクチャーを受けました。教授が実際のM&A事例を用いて説明をしてくれたため、各種条項のコンセプトを実践的に学ぶことができ、M&A交渉時の肝を理解することができた授業でした。今後M&Aの業務(プリンシパル、アドバイザー)に携わる可能性があるなら、受講をお勧めしたい授業です。グランゼコールと共同で提供されるCertificateM&Aでも同じ教授が教鞭をとっており、クラスメートからの満足度も評価に高い授業でした。

 

Mergers and Acquisitions

ElectiveではM&Aの授業は2つあり、一つは法務関係の授業、もう一つがディール分析を中心とした授業でした。ソシエテジェネラル、UBSBNPパリバで投資銀行業務に携わっていた教授が授業を担当し、実務や経験に即した話をベースに講義を受けました。

具体的には株式交換と現金対価という買収方法の違いによるEPSや格付け、株主への影響分析等、M&Aによる効果に焦点を当てた話がありました。授業ではGlencoreXstrataのディール、QuakerによるSnappleの買収失敗事例等を扱い、過去のM&Aに関する分析も行われました。戦略論やマーケティング、オペレーションに近い内容も議論され、これまで考えたことが無かった新しい切り口でM&Aケースを分析することができたのは新しい学びでした。

また。最後の授業では、直近のM&Aに関するケースについて、価格の妥当性、シナジー効果を分析してクラスメートの前でグループでプレゼンするという課題が与えられました。私のチームでは、TakeAway(宅配食料ビジネス)によるJust Eatの買収ケースを取り上げてプレゼンを行いました。

 

Technology & Innovation Strategy

技術を取り巻く様々な環境を理解し、イノベーションや技術変化が企業の価値創造にどのような影響を与えるかを学ぶ授業でした。複数のケースを読み、また起業経験者を授業に呼ぶことで、事例を基に技術を取り巻く環境の理解、分析を行いました。これまでなじみの薄かった経営概念に触れることができた授業でした。

具体的には2000年にソニーが上市したAIBOのケースが取り上げられ、当時未熟な技術であったAIやセンサー技術について、研究開発を続けながら製品を発売するソニーと研究開発に注力し続けるホンダのASIMOとの対比が取り上げられました。また、MakerBotのケースでは、2012年に成長したSME向けの3Dプリンター企業(MakerBot)の発展とそれまで3Dプリンター業界の雄であったStratasys3D Systemといった企業の対比を通じて、イノベーションのジレンマに関する議論が取り扱われました。その他にも、技術曲線と需要曲線のSカーブの特徴、プラットフォーム戦略の特徴、ネットワーク効果(直接・間接効果)の特徴と採り得る戦略オプション等、を学びました。最後の授業では台湾のスマートフォンメーカーであるHTCのケースをチームで分析し、スマートフォンビジネスからVRAR技術に軸足を置くHTCについて今後の技術戦略を考えてプレゼンを行いました。

 

Design and Management of Service Organizations

サービス産業におけるビジネスの特徴とそのマネジメントに関する理論を学ぶ授業でした。ケースやグループワークを通じて実践的で非常に学びの多い授業であり、教授のファシリテーションのレベルが非常に高かったので、個人的には受けてきた授業の中では最も満足度の高い授業でした。

サービス業は製造業とは異なり物理的な製品がないことから、ビジネスモデルやオペレーションの工夫、従業員の採用や教育が特にポイントになります。そのため適切なビジネスモデルを考えること、対象顧客を絞ること(対象としない顧客を特定すること)、ビジネスモデルに合ったオペレーションを高める方法を考えること、そのビジネスモデルに適合する従業員を特定して採用してモチベーションを高めることが重要である、といったテーマに則って授業が展開されました。複数のケースを用いて理論と実践を学びましたが、個人的に最も有意義だったTesseiJR東日本の子会社)の事例について下記にて簡単に整理しました。

 

Tesseiのケース

JR東日本の子会社である鉄道整備株式会社(現JR東日本テクノハートTESSEI)という、新幹線の清掃事業を行う会社を扱ったケースです。Tesseiでは新幹線が東京駅に停車する7分間で全ての車両を清掃する、という高いオペレーションスキルが求められますが、いわゆる3Kの仕事であるため従業員の離職率が高く、サービスパフォーマンスが徐々に低下しているという状況にあった企業でした。

 

授業では、サービス産業における従業員マネジメントの重要な要素として、CapabilityMotivationLicense3つの軸があることを理論として教わりました。従業員のスキル(Capability)や意欲(Motivation)を高めることに加え、自律性を持った仕事を認める(Licenseを与える)ことで、顧客に高いサービスを提供するという考え方です。かつてのTesseiでは従業員のスキルは高いものの、3Kというイメージから従業員のモチベーションは低かったようです。更に従業員は乗客との会話が禁止されており、自律性が極めて低い業務となっていたそうです。こうした状況を受け、Tesseiは自社の業務内容を「清掃会社」ではなく、「顧客ホスピタリティを高める」と再定義し、顧客を親会社のJR東日本ではなく、「新幹線の乗客」であると再定義しました。そして新幹線を利用する顧客の利便性を高めるためにも、従業員に乗客との会話を認めるようにしたそうです。このようにLicenseを与えられた従業員は、Motivationの向上とSkillの向上に努めるようになり、それがさらに高いLicenseにもつながり、従業員の離職率低下、さらには技術力の向上につながった。という話でした。

サービス産業では、サービスを提供する従業員がプロダクトの起点となるため、従業員の満足度や会社へのロイヤリティをいかに高めるのか、という点が製造業以上に重要になります。こうした従業員満足度、ロイヤリティを高める方法として、スキルの向上やモチベーションの向上(昇給)だけではなく、仕事の自律性を与えることが一つの解になるという点は個人的には興味深かったです。実際に私も仕事の権限やお客様とのやり取りの行う権限を多く与えられるようになってから、業務に対するモチベーションが上がり、自分のスキルの向上に努めるようになったことを思い出しました。もし仮にモチベーションを失った組織のマネージャーとなった時、自分がどのような働きかけができるのかを考えさせられるケースで、特に学びの大きな授業でした。

(参考)Tesseiの改革を行った矢部輝夫さんのインタビュー記事

https://ix-careercompass.jp/article/724/

 

Electiveの総論

ElectiveTerm3では、興味のある分野を中心に、グループワークが多い授業やケーススタディーの課題が多い授業を積極的に選びました。Electiveではグループワークのチームを作る際、自分から主体的にクラスメートに呼びかけをする必要がありましたが、私は自分の強みを活かせるメンバーやバックグラウンドが異なるメンバー、一緒にチームを組んだことがないメンバーを中心にチームを組むことを心がけました。これは私の留学の目的の一つでもある、「多様なチームにおけるリーダーシップ面での成長」という面でも試行錯誤をしたかったからです。こうしたチームのメンバーの中には、深い議論ができる人、傾聴力の高い人、資料作成に強いこだわりを持つ人、逆に資料のコンテンツに注意を払わない人等、様々なタイプのクラスメートと課題に取り組むことで、多様な仕事の進め方を学ぶことができました。

またElectiveではケーススタディを取り扱う授業の割合を多くしましたが、ケーススタディを多く扱う授業の中には早いペースでセッションが進んだものもあり、ケーススタディの割合が多いと授業の内容が消化しきれないとも感じました。HECでは(特にコア授業)、経営理論、ケーススタディ、シミュレーション、の3つのバランスが取れているという点が一つの特徴であると考えていますが、ケースの比重を多くした今回のElectiveTerm3を通じて、HECのコア授業(Term1Term2)の授業バランスの良さを改めて認識しました。 

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