Double Degree について(SciencePo)
J19のYKです。
今回はHEC MBAプログラムをさらにユニークなものにするオプションの一つ、ダブルディグリー制度について、特にSciences PoのMaster in Public Affairs (MPA)に焦点を当てて、ご紹介したいと思います。
概要
そもそもダブルディグリー制度というのは、MBAで必要な授業の単位と、他の提携校の学位で必要な授業の単位を相互認定することで、2つの学位を効率良く取得する制度を言います。HECに限らず、多くの学校がこの制度を持っていますが、提携校のラインナップが異なります。主なメリットとしては、HEC MBA以外の学位を取得出来ることに加え、本来2つの学位取得までに要する期間の短縮と費用の削減が出来ること、生徒、Alumni、教授等のネットワークが広がること等が挙げられます。
HECには、2020年6月現在、13種類の提携校の学位が選択肢にあります。ダブルディグリーには大きく分けて2種類あり、MBA&MBAの組み合わせ(HECと他校)と、MBA&MBA以外の学位の組み合わせです。厳密には前者をDouble Degree、後者をDual Degreeと学校では呼んでいるようですが、一般的には区別せず、どちらも一括りにDouble Degreeで通っています。いわゆるDual Degreeというのは4種類あり、その中でも数年前に出来たばかりの最も新しい提携プログラムがSciences
PoのMPAです。Sciences Poは日本ではパリ政治学院という名前で知られているグランゼコールの一つで、特に政治学や国際関係学等の分野が強く、フランスの官僚や政治家の多くが卒業しています。キャンパスはフランス国内に7つありますが、MPAはParisキャンパスで、7区のParis中心に位置しています。以下でSciences PoのMPAについて細かく説明していきたいと思います。
受験プロセス
受験はHEC・Sciences Po各校とも個別に応募して受かる必要があります。Sciences Poの応募期間は概ね入学前年の12月頃から入学年の4月頃までです。GMATやGREは必要なく、IELTS 7.0 or TOEFL 100以上、GPA 3.5相当以上、実務経験5年以上が要件となっており、その他に、エッセーや推薦状の提出が求められます。詳細は学校のホームページをご確認ください。
スケジュール
HEC MBAとSciences PoのMPAのどちらを先に修学しても問題ありませんが、Sciences Po MPAは9月入学の選択肢しかありません。仮にHEC MBAを先行した場合ですと、HEC MBAが9月入学の場合と1月入学の場合で全体のスケジュールが少し異なります。
【X1年9月HEC MBA入学の場合:実質1年9カ月+HECでSpecialisationなし】
X1年9月~X2年6月HEC MBA Term 1~3(Electives)
X2年9月~X3年6月Sciences Po全プログラム
【X2年1月HEC MBA入学の場合:実質2年+HECでElectivesなし】
X2年1月~X2年6月HEC MBA Term 1、2
X2年9月~X3年6月Sciences Po全プログラム
X3年9月~X3年12月HEC MBA Term
3(Specialisation)*
*Term 3(Specialisation)に代えてMBAプロジェクト+Electivesに変更することも可能です。
費用
プログラムの期間は、HEC MBAは1
Term分短縮されるものの、Sciences PoのMPAは短縮されません。そのため、HEC MBAの学費だけプロラタベースで1/4減額されます。ただし、奨学金はそれぞれの学校の奨学金を応募することが可能です。
MPA プログラム内容
2 Semesters (秋と春)+2 workshops (1月と6月)の主に4つの区分に分けられます。2つのSemestersがメインで、それぞれ必修授業と選択授業を取ります。どちらの学期も週6~9コマ程度(1コマ2時間)の授業を取って各自スケジュールを組み立てます。授業は英語で行われます。必修授業はマクロ経済学、ミクロ経済学、財政学、データ分析、金融・財政学、公共財政管理等です。選択科目はとても幅広い選択肢が用意されていてそこから数科目ずつ各学期に取ります。数えたことはありませんが、リストには各学期で100科目以上はあるのではないでしょうか。フランス語による授業も取ることが可能で、それも合わせると選択授業は150科目以上あるかもしれません。ジャンルも多岐に亘っており、文化、芸術、スポーツから、ヘルスケア、環境、デジタル、金融等々、何でも揃っています。教師は、学校の教授も多いですが、国際機関やシンクタンク、各国の官僚、政治家なども多くいます。
修士論文はありませんが、春学期から卒業直前にかけてPolicy Projectというプログラムがあります。これは、実際の国際機関(OECDやEBRDなど)やシンクタンク等から与えられた調査課題を数人のチームで調査、分析するプロジェクトになります。
テストや課題は選択科目にもよりますが、個人作業のエッセーが多く負荷は大きいと感じました。ちなみに、成績はフランス流に20点満点で各科目が評価されます(10点が合格ライン)。
MPAの生徒構成
20代前半が多いヨーロッパのMasterプログラムには珍しく、MPAはMid-Career向けになります。Sciences Poには、Master全体で1学年750人ほどの生徒がいるようですが、MPAは20から30人の小世帯です。私の代は年齢は20代後半から40代半ばまでいました。学校も多様性を重視しており、生徒は世界各国から来ており、フランス人は基本的にいないか、いても一人、二人程かと思います。バックグラウンドは公務員が多いですが、それでも官民半々くらいの印象です。民間はコンサル出身者がやや多く、エンジニア、弁護士、軍人、NGOの人もいました。私の代は20人の生徒でそのうち、HEC MBAのダブルディグリー生は4人(S18から2名、J19から2名)でした。必修授業はMPAの生徒だけで受けますが、選択授業は他のMaster生達と一緒に受けます。
ダブルディグリーを終えての所感
最後になってしまいましたが、2020年6月にSciences PoのMPAを終えた私のケースを振り返って終わりにしたいと思います。
私は前職で途上国のインフラ案件の財務コンサルタントをしており、卒業後は国際開発機関のキャリアを志望していました。そのため、都市開発やインフラ案件に関する政府側の役割や政策、行政をもっと深く理解したかったことと、フランス語の勉強期間を延ばしたいと思っていたため、Sciences Poのダブルディグリーを受験しました。受験もHEC MBAの授業が始まって忙しくなる前の2018年12月末に応募は完了させていました。
振り返ってみると個人的にはとても満足度が高かったプログラムでした。MPAでは、主に、公共調達、PPP(Public Private Partnership)、開発金融、環境経済、都市開発、などに焦点を置いて選択授業を取っていました。授業の中身もさることながら、世界銀行やEBRDなど自分が志望する国際開発機関の実務家が教師を務めており、キャリア相談をしたり、ネットワークを築いたり出来ました。また、授業だけでなく、ノーベル経済学賞受賞者のJoseph Stiglitzやギリシャの元総理大臣など、貴重な講演が毎週のように行われており、世界的な政治・経済学者や著名な政治家から意見を生で聴くことが出来るのはとても贅沢な経験でした。さらに日本の政治、政策を外から見て考える良い機会にもなりました。公共財政の授業で、IMFのアドバイザーでイギリスの財務省に勤める教師が言った、「世界には4種類の国がある。リッチな国、貧しい国、アルゼンチン、日本だ。」という独特の表現は日本の財政政策に深く関心を持つきっかけにもなり、記憶にも良く残っています。同期の政治に対する関心や知識も非常に高く、授業内外でたくさんの刺激を受けました。
HEC MBAと比べてみると違いはいくつもありますが、やはり大きな点はHECは実務的である一方、Sciences Poは学術・研究的である点かと思います。Sciences Poで学ぶことはPublic Sectorや研究機関等で活かされることが多く、必ずしも民間の仕事で即生きる知識ではないと思うので、MPAを合わせて勉強される場合は目的意識をしっかり持つ必要があると思います。他の点としては、生徒数がHECの方が百数十人(クラスも60人で1クラス)ですが、Sciences Poは2、30人ととても小規模でしたので、クラス内の発言も自由度が高く、学習効果は高いと感じました。
課外面でいうと、人数が少ないプログラムなので、生徒の仲も良く、月に2、3回は誰かの家でホームパーティが開かれてました。晴れた日には皆で学校から少し歩いてリュクセンブルク公園でピクニックをしたり、学校の前にあるSciences Po生行きつけのLe Basileというバーや、セーヌ川沿いでビールやワインを飲んだり、小旅行を一緒にしたりと、パリの中心で青春気分を謳歌することも出来ました。
長くなりましたが、ダブルディグリーに興味のある方はぜひ検討してみてください。追加のご質問等があれば、いつでもお気軽にご連絡ください。